新しい学びのカタチ
生徒が自分から取り組み、
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文学

芥川 鼻

「細長い腸詰のような」鼻をしている自分を気にしている僧侶。この僧は、「実にこの鼻によって傷つけられる自尊心によって苦しんだのである。」だからこそこの僧は、周りの視線を過剰に気にし、疑り深くなり、弟子たちに対しても傲岸な態度をとる。そしてこの鼻さえ短くなれば、とそのことに懸命になる。
とうとう鼻を熱湯につけるという荒療治をこころみたところ、鼻がみじかくなったではないか。喜んだのもつかの間、こんどは周囲は急に鼻の短くなった僧を陰で笑う。周りの人間は何をしても自分を馬鹿にしてくるように思われてならない。自分の見てくれを気にしすぎるあまり、苦しみ続ける人間と、そのさまを嘲笑する周囲。滑稽でありながらも人間のうちに潜む苦悩の源と残忍をみるようだ。ただし、僧が自分の鼻のことをことさらに気にしすぎて周囲に対しても疑いの眼から攻撃的にならなかったならば、周囲の反応ははたしてどうだったか。さまざまなことを考えさせられるこのお話、最後はふたたび元のように長くなった自分の鼻に、この僧は「はればれとした心もち」になるところで終わる。ようやく僧はなにかを悟ったのだろうか。そうではない。この僧は、急に短くなった鼻を笑われたのだから、もとどおりになれば、誰も笑わなくなるだろうと思っているのだ。

2024/6/27