教育についての本で、もっとも古典的で有名なのはなんといっても、ルソーの『エミール』ですね。私は、現在教育界でもっとも活躍されている哲学者・教育学者の苫野一徳さんの『エミール』読書会にオンラインで1年くらい参加しました。そこで多くのことを学び考えました。
『エミール』は、架空の少年を、先生(ルソー)が生まれてから結婚するまで教育する過程を描きながら、そこにルソーの教育を中心とした思想を展開したものです。私が印象に残ったことをいくつか挙げます。
まず、大人が子供に対してあれをしろ、これをするなといいつづけるなら、子どもは何にもできなくなってしまうぞ、ということ。今の小学生にあたるような段階では、いろいろと体験させて自分でそれを理解するような機会をつくるべき。中学生の段階では知性が目覚めてくるが、これを記憶・暗記ばかりさせることでつぶさずに、自分で試したりして考えるようにさせるべきこと。高校生ぐらいでは、道徳を身につけるが、その場合強制するのではなく本人の内面に良心が根差すようにかかわるべきだという。ルソーは発達段階に応じて、何を教え込むのかよりも何を教育する側がすべきではないかをはっきりさせることで、子どもの内発的な成長を促すべきことを自覚していたのだと思います。
『エミール』では、先生がエミールの生涯の伴侶と結びつけたかとおもうや、むりやり二人を離れ離れにさせたりとか無茶な展開もあるし、女性教育を男性と切り分けていたりと疑問点もあるけれど、この本の教育理念は時代を超えて輝いていると思います。また、この本のラストはすごく感動的でもありました。私の塾でも、現在の諸条件に適応させながらもルソーの、外からの強制ではなく自分の具体的経験と、内発的な動機づけを大切にすることで、他者とともに自由に生きることのできる主体的な人間を育てようとする教育の理想を活かし、「よい教育」の場を地域に作ってゆきたいと思います。